雅楽の笛用・笛筒を、輪島塗にして古墨風龍蒔絵を施し、特注金具をつけました
輪島塗を愛して、かわいがってくださるお客様から、
さまざまな特注・特別注文をお受けすることがあります。
御自宅やオフィスの部屋の大きさに合わせた家具や額、
大きさや厚み・蒔絵沈金をお使いになる方に合わせた椀や盆、などの食器、など。
「自分の大切なものと、輪島塗を組み合わせたらどうなるだろう」
そんな自由な発想で、おもしろい輪島塗を製作させていただくことがあり、
特に初めての場合は、熟練の塗師屋も、智慧を絞り工夫を凝らして、挑戦します。
この度は、雅楽の奏者であるお客様より、雅楽の笛を入れるケース(笛筒)を
輪島塗に、との御注文をいただきました。
大変いいものになりました。
この笛筒は、蒔絵で 「古墨(こぼく)」 という技法を駆使しています。
古墨(こぼく)とは
習字に使う墨(すみ)は、古来より、色々な文様がかたどられていました。
現在にも沢山の書物が残され、美しい文様や形が伝えられています。
その古くから伝えられてきた、美しい文様がかたどられた墨を模して、
蒔絵で墨そっくりに描く技法を、古墨(こぼく)蒔絵と呼んでいます。
古墨蒔絵は、先の蒔絵師達もそのおもしろさに惹かれ、数々の名品を残しています。
細かなひび割れや、質感・立体感は、本物の墨のよう。
これが蒔絵で、筆で、描かれているのですから、素晴らしい技です。
龍の目には、貝を貼りました。
笛筒の局面に合わせて、貝を細く切って、一枚づつ貼りこんでいます。
貝は、見る角度によって様々な色に見えて、美しいものです。
特注・特別注文の場合は、まず、お客様のご希望のイメージを、よくうかがうことから始めます。
様々な蒔絵や沈金の図・塗の見本などもご覧いただき、光具合や質感もご確認いただきます。
特に初めて製作するものは、「こんな風になります」という見本がないので、
図をかいたり、さまざまな見本をご覧いただいたりして、仕上がりを想像しながら
じっくりご相談させていただきます。
その際には、お客様からもイメージに近い図や写真などを見せていただけると、
より分かりやすいです。もちろん、ぼんやりとしたイメージだけでも、大丈夫です。
また、ご予算がお決まりでしたら、ご相談いただけましたら、出来る限りご希望に添えますよう、
図や技法・形をご提案できます。
この度のご希望は、
「笛筒のまわりを、龍がぐるっと巻いているような図」
「天から降りてくる、玉を持った龍の図」
「ひも通しの金具を、龍の図にちなんだもので、特注する」
でした。
古墨の見本をご覧いただいて、この技法を大変お気に召していただき、
お客様との相談のうえ、図案を製作いたしました。
金具は、天から降りてくる龍にちなんで、雲型にしました。
この金具は銀製で、形・大きさをお客様と相談して図を作ってから、
金沢の、名工として名高い金具師さんに製作を依頼しました。
一つ一つ手作りの、さすがに大変いいものを製作していただき、
素晴らしい笛筒になりました。
笛筒の底面は、お客様のご希望の、菊型の金具(銀製)を、
共に特注し、製作してもらいました。
強弱をつけるために、龍がまとっている炎(火炎)を、古墨で盛り上げた後、
黒い漆で描きました。
光沢のある黒い火炎は、上品ながら、全体を引き締めるきりっとした印象にできました。
龍の鋭い爪でつかんでいる玉は、銀の板金を貼ったのではなく、銀の高蒔絵で描いています。
笛筒は、細くてきつく回った曲面なので、板金を貼るのは後あとはがれる恐れがあることと、
「板金では光り過ぎる」というお客様のご希望により、ふっくらと盛り上げた、
銀の高蒔絵にて描きました。
笛筒のてっぺんには、龍のしっぽを描いています。
この部分だけ見ていると、本物の墨の様です。
この特注・笛筒は、製作期間約7か月にて仕上がりました。
特注の場合は、特に時間的な余裕をいただけますと助かります。
できるだけお客様のご希望に添えるように製作したいので、相談の期間も必要だからです。
「こんなものができないかな?」どうぞお気軽にお問い合わせください。
誠心誠意、ご相談させていただきます。
輪島漆器大雅堂は、貴方だけの特注輪島塗の製作も得意です。
今までに見たこともないような輪島塗でも、創業大正11年の経験と豊富な知識・
優れた多数の職人たちが、貴方の思いを形にするお手伝いを致します。
輪島塗の工程は、どれをとっても一つ一つ手作りのオーダーメードと同じです。
ですから特注だから、お誂えだから、ぐんと価格が高くなるということはありません。
また、色や模様だけでなく、器物の形からお誂え可能です。
オーダーは難しくありません。
「こんな感じで、、、。」というような、頭の中のイメージからでも、段々と形にしていきます。
特注・お誂えは、お気軽にご相談くださいませ。
世界で一つの輪島塗を、貴方の思いのままに製作いたします。
輪島漆器大雅堂は、そんな楽しみな仕事が大好きです。
ご用命のほどを、心よりお待ち申し上げております。
若島基京雄(わかしまきみお)
全国を行商して歩いた祖父・父は、旅先で大変可愛がって頂き、現在でも祖父・父を知るお得意さまが多数ございます。
祖父・父は、「物がなくても売る」達人 営業マンでした。
お客様の前で輪島塗の器の仕上がりのイメージを、すらすらと絵に描いて見せ、仕上がった見本が無くても注文を取りました。器の形や色、蒔 絵・沈金の模様まで、その場で細かくうち合わせができ、仕上がった品は、大変お喜び頂いたそうです。
私もそうなりたいと、自己流ながら勉強し、輪島の技法の全てを頭にたたき込み、
お客様の求める物のイメージを形にしたい、と思っています。
現在は、器物の 形から、蒔絵・沈金の図案までお客様のご要望に合わせ、
自分で作図して制作にあたります。
頭の中で見える仕上がりの姿を、木地師から蒔絵・沈金師に細かく 指定し、
喜ばれる、そして末永く愛して頂ける輪島塗を生み出していきたいと考えております。
輪島漆器商工業協同組合 組合員
石川県輪島漆芸美術館 友の会 事務局長
合気道 奥能登合氣会 会長
輪島漆器大雅堂株式会社 代表取締役