20年以上も前の話ですが、能登全域を廻って要らない家具膳お椀を安く買ってきたことがあります。置くところがないので捨ててしまおうという人もいました。
能登と言えども輪島塗ではない漆器もたくさんありました。それらの漆器は、ほとんど漆が剥がれていました。下地がしっかりしている輪島塗は、欠けているものは多少ありましたが剥がれているものはほとんどありませんでした。
よく見て気付いたことですが、地の粉を使った本堅地で仕上げられてはいますが布がかかっていない!?ものとか、これ!紙?というものまであったり、下地が薄いもの厚いものなど様々でした。また、お椀の上縁が布で高台は何もかかっていないものもあり、輪島塗と言えども様々なものが存在するということをはじめて知ったものです。
その頃買ってきたものの中でいいものを最近もったいないので塗り直して使っています。少し木地は歪んでいますがこれも天然素材の味わいです。100年も前のお椀が新品に生まれ変わるのです。実は、下地のしっかりしているものはある程度時間が経っているほうが硬くて丈夫なのです。100年熟成されたお椀ということになりますね。
うちの家族は鍋の時にも取り鉢としてこのお椀を使っています。陶器や磁器だと熱いものを入れると器まで熱くなって持てないと言うわけです。一度、輪島塗の器を使うとやめられないようです。
高台があるのと無いのでも、えらい違いです。高台があればしっかり持つことが出来て余った汁などを伏せるようにして捨てられますが高台がないと滑り落ちることもあります。上縁を持って捨てると手に汁がついて汚れることもあります。お椀の形は、あるべくしてある形なのだと再確認します。
若島基京雄(わかしまきみお)
全国を行商して歩いた祖父・父は、旅先で大変可愛がって頂き、現在でも祖父・父を知るお得意さまが多数ございます。
祖父・父は、「物がなくても売る」達人 営業マンでした。
お客様の前で輪島塗の器の仕上がりのイメージを、すらすらと絵に描いて見せ、仕上がった見本が無くても注文を取りました。器の形や色、蒔 絵・沈金の模様まで、その場で細かくうち合わせができ、仕上がった品は、大変お喜び頂いたそうです。
私もそうなりたいと、自己流ながら勉強し、輪島の技法の全てを頭にたたき込み、
お客様の求める物のイメージを形にしたい、と思っています。
現在は、器物の 形から、蒔絵・沈金の図案までお客様のご要望に合わせ、
自分で作図して制作にあたります。
頭の中で見える仕上がりの姿を、木地師から蒔絵・沈金師に細かく 指定し、
喜ばれる、そして末永く愛して頂ける輪島塗を生み出していきたいと考えております。
輪島漆器商工業協同組合 監査役
石川県輪島漆芸美術館 友の会 事務局長
合気道 奥能登合氣会 会長
輪島漆器大雅堂株式会社 代表取締役