輪島塗を使う時の注意点は?
堅牢で優美な輪島塗を、大切にお使い頂き、ありがとうございます。
輪島塗をお使い頂く上で一番注意して頂きたいことは、何だと思われますか?
柔らかいスポンジで洗う
傷がつかないように、丁寧に取り扱う
極度に乾燥する場所に置かない
陶器やガラスと一緒に洗い桶に入れない
電子レンジや食器乾燥機を使わない
手で持てない、口をつけられないほどの熱いものを入れない
どれも、大変重要な注意点です。
しかし、見過ごしがちな大きな問題があります。
食器類よりは、輪島塗の家具・座卓(テーブル)の場合、特にそうなんですが、
「長く直射日光に当たる場所には、置かない」
ことです。
これは、輪島塗に用いられる天然漆(うるし)の表面が、長く直射日光や蛍光灯の「紫外線」にさらされる事によって劣化をし、変質してしまうからです。
漆(うるし)とは
漆について、考えてみます。
漆は、漆の木の樹液です。
漆の木に傷をつけて、その傷口をふさぐために、漆の木が「固まる樹液」を出します。
漆の木にとって、この樹液は、「かさぶた」の様なものです。
その樹液を掻きとって集め、私達人間が、漆という塗料として、接着剤として、日常生活に利用しています。
漆はいつから使われているの?
漆が塗られた器物を「漆器」といいますが、漆の歴史は古く、古墳や遺跡から漆器が見つかっています。
古いもので、縄文時代前期、なんと5000年前の漆が塗られた櫛が発掘されていますから、この頃には漆は、人々の暮らしに役立てられていたようです。
ちなみに、現存する最古の輪島塗は、輪島市河井町の重蔵神社にある内陣の扉で、輪島市指定文化財になっています。
輪島市最古の漆工芸「重蔵神社本殿内陣の扉」
永仁四年(1296年)に神社の本殿は建造され、百年後の応永四年(1397年)に本殿内陣の扉に朱塗りが施されました。
しかし海から吹き上げる潮風で破損が甚だしく、明和五年(1768年)に塗師松本屋弥平次の手により、塗り替えられました。
文献によれば、江戸時代中頃には輪島にかなりの塗師が存在し、漆器産地を形成していたことがわかります。
本殿は明治四十三年(1910年)の大火で焼失。
しかしどういうわけか、この扉だけが輪島湾の海中に漂っているのを氏子が発見し、拾い上げ、翌明治四十四年に再建された本殿に使用され、今日に至っています。
重蔵神社HPより抜粋
漆が堅牢な理由は?
漆の成分は、ウルシオールが60~65%、その他、ゴム質・含窒素物・酵素・水 です。
漆は、漆の木の樹液ですので、器物に塗る時は液体ですが、漆に含まれる酵素と、空気中の水分が化学反応をおこして硬化(固体になる)すると、大変堅く丈夫になります。
この時、洗濯物のように乾燥して水分が蒸発して乾くのではなく、かえって湿度の高い所に置くことで、漆は硬化します。
漆の堅牢な理由は少し難しいのですが、漆が硬化するとその漆の塗膜は、分子量が大きい高分子で、さらに網状に緻密な分子間結合が備わっている事が証明されています。
漆は、高分子が幾重にも重なり密につながることで、粘性と弾力性・表面の硬さも、温度変化によってあまり変わらない・影響されません。
硬化した漆の塗膜は、ウルシオールの粒が幾重にも整然と並んでいます。
酸化しやすいウルシオールが丈夫な固体を作り、それ以上生化学反応を必要としなくなった時点でゴム質が酸素を遮断し、酸化による劣化から保護しています。
これが、丈夫さの理由です。
泥水中に2000年浸かっていた漆器は、どうなっていたのか?
大正5年に日本人の手により発掘が開始された、韓国「楽波遺跡」からは、多くの漆器類がみつかりました。
楽波は、今から約2000年前に中国に侵略され作られた街で、当時、高度な漢の文化が流入したそうで、漆器もその一つ。
発掘された漆器の漆そのものは、2000年泥水に浸かっていたのに、腐っていなかったし、光沢もちゃんとしていた、そうです。
その後、塗膜はどのくらい科学的に変質したかが調べられ、酸類(塩酸・硫黄・王水など)につけても変化がなく、ガラス屋陶器は穴が開くか溶けてしまうフッ化水素に対しても、ほとんど変化がない、とわかったそうです。
2000年も泥水に浸かっていたものが、ほとんど変化がないとは、驚異です。
どうしてこんなに丈夫なのでしょうか?
それは、自然が自然に耐えられるものを作ったからです。
漆は生物と同じで、水と酸素を生活源として、丈夫で美しい塗膜を生み出しています。
これからも、自然からの贈り物「漆」を、「漆器」を、大切に使い続けていきたいものです。
輪島塗は紫外線が大敵
漆の驚異的な丈夫さがわかりました。その耐久性は、4000年とも5000年ともいわれます。
が、実はこの丈夫さは、屋内とか地中など日の当たらないところに保存された場合です。
日にさらされている日光東照宮や浅間神社などは、10年に一度くらいの間隔で塗り替えが行われています。
漆は、何千年も変化しないと言われながら、他方では、10年しか持たない、、、。
本来は大変丈夫な漆の塗ですが、太陽の紫外線には大変弱いのです。
漆の塗膜に紫外線を照射する実験によると、塗面に紫外線を照射後は、塗面の重量が減少するそうです。
これは、漆塗膜の一部が分解して揮散するため、と推論されています。
ここで、思い出してください。
丈夫さの理由の所に出てきた「酸化しやすいウルシオールが丈夫な個体を作り、それ以上生化学反応を必要としなくなった時点でゴム質が酸素を遮断し、漆の酸化による劣化を保護しています。」の中の、ゴム質。
この、ウルシオールを保護しているゴム質が、紫外線によって劣化し、とれてしまって、ウルシオールが酸化し漆は劣化してしまう、という事なのです。
ですから、輪島塗を、長時間日の当たる場所に置くことは、漆の劣化につながり、美しい艶や光沢を台無しにしてしまうことになります。
漆が劣化した輪島塗のテーブルを、布で拭くと、茶色く色がつきます。これが漆が劣化している証拠です。
全国を行商して歩いた祖父・父は、旅先で大変可愛がって頂き、現在でも祖父・父を知るお得意さまが多数ございます。
祖父・父は、「物がなくても売る」達人 営業マンでした。
お客様の前で輪島塗の器の仕上がりのイメージを、すらすらと絵に描いて見せ、仕上がった見本が無くても注文を取りました。器の形や色、蒔 絵・沈金の模様まで、その場で細かくうち合わせができ、仕上がった品は、大変お喜び頂いたそうです。
私もそうなりたいと、自己流ながら勉強し、輪島の技法の全てを頭にたたき込み、
お客様の求める物のイメージを形にしたい、と思っています。
現在は、器物の 形から、蒔絵・沈金の図案までお客様のご要望に合わせ、
自分で作図して制作にあたります。
頭の中で見える仕上がりの姿を、木地師から蒔絵・沈金師に細かく 指定し、
喜ばれる、そして末永く愛して頂ける輪島塗を生み出していきたいと考えております。
輪島漆器商工業協同組合 組合員
石川県輪島漆芸美術館 友の会 事務局長
合気道 奥能登合氣会 会長
輪島漆器大雅堂 代表取締役