亀甲椀を見てひとこと。
百貨店の展示会で販売に行っていたころ、輪島塗の木目見せのお椀を見た子供が、
「ファミレスのお椀とおんなじだー」
と話していました。
本物はこちらなのに、基準は、ファミレスなんだから、あらためて、びっくり。
今の時代、何が本物で、何が偽物か、判らなくなってしまっています。漆も塗っていないのに、漆器なんて、バカにしています。漆を使ったことのない漆器屋さんが沢山あるんだから、無理もないけど、本物の輪島塗は修理しながら愛着をもって一生涯使うことのできる漆器です。この考え方が基本になるよう製造者として広めていかなくてはいけません。
箸の持ち方が、、、。
テレビで料亭で食事をする番組を何の氣なしにみていたら、若い女優さんが煮物椀をもって鴨肉を食べていました。あれっと思わず口に出すほどびっくりしました。箸を逆手で握りしめて起用に食べているのです。そのためか背中も丸くなり、縮こまって窮屈にみえました。演技指導もないのか、知らないのか、どうでもいいのか、まったく話になりません。ここで知るは一時の恥、知らぬは一生の恥とはよく言ったものです。
水につける。
以前、輪島塗の販売に出ていたころのお話です。お客様からの質問で、「漆器は水につけても大丈夫ですか?」とよく聞かれました。「はい。輪島塗は大丈夫です。」と即答したものです。二日も三日もつけておくのはあまりよくありませんが、汚れをふやかすくらいのつけ置きは大丈夫です。こびりついた汚れを取れないからといって布やスポンジでゴシゴシすると余計に傷をつけてしまいます。また、輪島塗であれば、多少欠けて下地が見えていても水分を吸い込まない性質の下地(この下地方法を輪島地の粉による布着本堅地といいます)が施されていますので大丈夫です。そう言えば、「母やお婆ちゃんに言われて、ぬるま湯で洗って紅絹(もみ)の布で拭いて空干しするのがいやでいやでたまらなかった。だから、漆器はこりごりで使いたくない。」という話もご年配の奥様方からよく聞きました。なるほどなと思い、そんな奥様にお話しさせていただきました。「それは、情操教育の一環でしっかり教えておかないとお嫁に行って恥をかくことになるのでそうならないようにという親心すよ。」と、その奥様のお母さんやおばあさんは自分の娘や孫が輪島塗の家具膳(吸物椀、飯椀、平椀、平椀、壺椀、茶津、お膳のセットのことで、これを通常20人前から40人前用意していたものです。)のあるりっぱな家柄のご子息のお嫁さんになり、幸せになってほしいといつも祈っていたのでしょう。話の続きがあります。そのあと「本当は、そこまでしなくてもいいのです。ぬるま湯につけるというのは、湯通しするということで、水切れがよくなりさらっと拭くだけでいいようになるわけです。」熱湯だと、つける時に手が火傷してしまいますし、同じように塗り物も火傷してしまいます。昔から言われていることに、輪島塗は、人が住む同じ環境に置き使えというのがあります。まさに、人が火傷するなら、塗り物も火傷するということですし、手をスポンジの硬いほうでこすると傷だらけになるのと同じように塗り物も傷だらけになるということです。ちなみに、スポンジを使う時は柔らかいほうで中性洗剤を使って汚れを流すように洗うとよいです。
若島基京雄(わかしまきみお)
全国を行商して歩いた祖父・父は、旅先で大変可愛がって頂き、現在でも祖父・父を知るお得意さまが多数ございます。
祖父・父は、「物がなくても売る」達人 営業マンでした。
お客様の前で輪島塗の器の仕上がりのイメージを、すらすらと絵に描いて見せ、仕上がった見本が無くても注文を取りました。器の形や色、蒔 絵・沈金の模様まで、その場で細かくうち合わせができ、仕上がった品は、大変お喜び頂いたそうです。
私もそうなりたいと、自己流ながら勉強し、輪島の技法の全てを頭にたたき込み、
お客様の求める物のイメージを形にしたい、と思っています。
現在は、器物の 形から、蒔絵・沈金の図案までお客様のご要望に合わせ、
自分で作図して制作にあたります。
頭の中で見える仕上がりの姿を、木地師から蒔絵・沈金師に細かく 指定し、
喜ばれる、そして末永く愛して頂ける輪島塗を生み出していきたいと考えております。
輪島漆器商工業協同組合 監査役
石川県輪島漆芸美術館 友の会 事務局長
合気道 奥能登合氣会 会長
輪島漆器大雅堂株式会社 代表取締役