輪島塗の工程
輪島塗の製作工程をご紹介します。
ここでは、銘々皿の、木地から始まり、漆が塗りあがって、模様をつけるまでの工程を紹介しますが、木地が出来上がるまでにも沢山の工程があります(別の機会に紹介します)
木地(けやき)です。塗の工程の始まりですが、木地の工程では完成品です。
切彫り(きりぼり)
木地に割れ目(箱などの場合は板の合わせ目)があった場合には、小刀で大きめに彫って、割れ目の隅々までしっかり漆がつきやすいようにする。(しかし、私達の会社では、割れ目のある木地は使っていません。)
こくそ
切彫りしたところに、へらで、こくそ(生漆とけやきの粉を混ぜたもの)を埋める。
こくそが硬化してから、こくその面を外かんなで平滑に削り落とす。
ここまでが、下地に入る前の下仕事です。
木地に漆を浸み込ませ、このあとの工程で塗られていく漆と木地を一体化させるために、生漆をへらで素地面に塗る。
角(かど)の部分をさめ皮を用いてみがき、表面を荒らし、その後、全体をサンドペーパーで磨く。
各工程のあと必ず研ぎがはいります。そうすることによって、表面が平滑になり、細部にわたり小さな縦横無尽の傷がつくことによって、次の工程の漆が付やすくなります。
職人さんは、各工程で塗を完成させる思いをもって、塗っていくのです。
着せ物漆(生漆と米のりを混ぜたもの)で、器物の破損しやすい所に布を貼着させ、へらや指で布を強く摩擦し、完全に密着させる。
これは、木地の割れやすい所やいたみやすい所を布で補強するためと、ぶつけて漆面が欠けても木地までは達しないようにすること、また、水気のものが木地にしみこまないようにするためです。
着せ物が硬化してから、布着せの際に生じた重なり合いの部分などを小刀で削り、平滑にする。
木地と布着せの境をなくするため、総身漆(生漆と総身粉とを混ぜたもの)をへら付けする。(写真は、手触りを体験する際に、何度も触って、そのために削れた線がついてしまいました)
総身地が硬化してから荒砥で空研ぎする。
木地全体に一辺地漆(生漆と少量の米のり、地の粉を混ぜたもの)をへらで下地付けする。
また、器物の破損しやすい所に生漆を檜皮箆(ひかわべら)で塗る←この作業を地縁引き(じぶちびき)という。
荒砥石で軽くから研ぎし、粉塵を払い取る。
一辺地付けした全面に、二辺地漆(生漆と少量の米のり、一辺地より細かい地の粉を混ぜたもの)をへらで地付けする。
また、器物の破損しやすい所に生漆を檜皮箆(ひかわべら)で塗る←この作業を地縁引き(じぶちびき)という。
二辺地付けした全面を砥石で空研ぎする。
二辺地付けした全面に、三辺地漆(生漆と少量の米のり、二辺地より細かい地の粉を混ぜたもの)をへらで地付けする。
また、器物の破損しやすい所に生漆を檜皮箆(ひかわべら)で塗る←この作業を地縁引き(じぶちびき)という。
二辺地付けした全面を砥石で空研ぎする。
三辺地研ぎの際のこまかな凸凹を埋める為に、漆を薄く塗り硬化させます。
めすりが十分に硬化した後、砥石を用いて水研ぎします。
この工程で初めて、水研ぎをします。
ここまでで、輪島塗の下地作業は完成し、器物は、下地職人のもとから塗職人のもとへ移ります。
中塗漆を中塗刷毛を使用し前面に塗り、塗師風呂へ入れて硬化させる。
その後、塗面の状態により下の二つの工程を経る。
◎錆ざらい(さびざらい)中塗り面のふし(細かなちり・ごみなど)を外かんなで軽く木目方向に削って取り除く。
◎つくろい錆(つくろいさび)錆ざらいの後、錆漆(さびうるし)(生漆と水練りした砥の粉を混ぜたもの)を、塗面の凹部へ、へらで塗る。
↑上の写真の、白っぽい部分が、錆漆を塗った様子です。
中塗り研ぎ(こしらえもんとも呼ぶ)
青砥石、または駿河炭(するがすみ)で、塗面全体を平滑になるまで水研ぎする。
漆を塗った時の刷毛目や、細かなちりなどを取り除いた跡などを、平滑に仕上げる。
中塗り漆を、刷毛を使って前面に塗り、塗師風呂へ入れて硬化させる。
小中塗り研ぎ
駿河炭で塗面が平滑になるまで水研ぎする。
拭き上げ(ふきあげ)
小中塗研ぎしたものをもう一度青砥または駿河炭で全体を精密に研ぎ、不純物の付着を除去し、布で拭く。
この工程以後は、素手で触ることは、仕上がりが悪くなるので、厳禁となる。
上塗りは上塗り室(塗師蔵)でおこなう。
順序
刷毛でちりを取る→わたし刷毛で上塗り漆を荒づけ→仕上刷毛で仕上塗をする→隅は隅出し刷毛で漆のたまりを取り除く→ちりを、ふしあげ棒で取り去る→塗り込み風呂→回転風呂に入れて漆が垂れてくるのを防ぐため、一定時間ごとに回転させながら硬化させる。
塗師蔵(ぬしぐら)とは
上塗りを施す場所は、塵埃が飛散せず、外気の寒暖を容易に伝えぬ専用の場所が必要であり、輪島では土蔵の二階を使用している。現在ではこれにかわり、適温・適湿に調整できる上塗室を使用している塗師屋もある。
塗師風呂(ぬしぶろ)とは
上塗りの終わった塗り物に塵埃が付着するのを防止すると同時に、漆の硬化に必要な温度と湿度を保持するため、塗師蔵(上塗り室)に備え付ける、約巾180cm、高さ90cm、奥行90cmの大型収納庫風のものをいう。
杉板製、正面は引違い戸、内部には棚板用の桟がある。
漆が完全に硬化するには、次の4種類の風呂を使用する。
1.塗り込み風呂
最初は湿度の低い「塗り込み風呂」へ入れて、上下に回転させる。これを「かやり取り」という。
2.回転風呂
刷毛跡やふし跡が見えなくなった頃に、湿度の高い「回転風呂」へ移し、同じく「かやり取り」をする。
3.上げ風呂
塗面の流動が止まれば、湿度の低い「上げ風呂」へ移す。
4.湿(しめ)風呂
これを再び湿度の極く高い「湿風呂」に移して、充分に硬化させる。
蒔絵(まきえ)とは
筆を使って、漆で図案を描き、その上に金粉や銀粉を蒔き、更に粉留めのために漆を擦り込んだり塗ったりし、硬化後研いで磨いて、金粉や銀粉を輝かせる技法です。
漆を蒔く(まく)とは
細い竹製の筒状の道具に、金粉や銀粉を入れて、指でたたくようにして、漆絵のうえに金粉を、はらはらと散らすように密にふりかけていくこと。
蒔絵の工程は、模様や技法により異なります。
高蒔絵・平蒔絵・研ぎ出し蒔絵など、様々な技法があります。
沈金(ちんきん)とは
鋭利なノミで、塗面に模様を彫り、漆を入れて、そこに金粉や金箔を固着させて模様を描き出す技法です。
ノミの形は多数あり、また彫り方も線彫り・点彫り・ボチ彫り・こすりなど多数で、模様や仕上がりの雰囲気に合わせて、様々に変化させて仕上げます。
仕上がった輪島塗にノミをあて、彫る沈金は、一発勝負。
失敗は許されません。
呂色(ろいろ)とは、まず、塗面の刷毛による凸凹を、角で研ぎ平らにします。
その後、炭研ぎで着いた粗い擦り傷を、コンパウンドで、細かい傷になるように磨きます。
次に油分を拭き取って、生漆で塗り面にすり漆を施します。
生漆が硬化したら、角粉(つのこ:現在はチタン粉も使用)と脂を使って、職人の素手で磨きます。
このすり漆とみがきの工程を、3~4回繰り返して、輪島塗のまるで鏡面のような美しい艶が生まれます。
この工程を、呂色(ろいろ)といいます。
※この他に、漆を精製する「精漆工程(せいしつ)」という大切な工程もある。
若島基京雄(わかしまきみお)
全国を行商して歩いた祖父・父は、旅先で大変可愛がって頂き、現在でも祖父・父を知るお得意さまが多数ございます。
祖父・父は、「物がなくても売る」達人 営業マンでした。
お客様の前で輪島塗の器の仕上がりのイメージを、すらすらと絵に描いて見せ、仕上がった見本が無くても注文を取りました。器の形や色、蒔 絵・沈金の模様まで、その場で細かくうち合わせができ、仕上がった品は、大変お喜び頂いたそうです。
私もそうなりたいと、自己流ながら勉強し、輪島の技法の全てを頭にたたき込み、
お客様の求める物のイメージを形にしたい、と思っています。
現在は、器物の 形から、蒔絵・沈金の図案までお客様のご要望に合わせ、
自分で作図して制作にあたります。
頭の中で見える仕上がりの姿を、木地師から蒔絵・沈金師に細かく 指定し、
喜ばれる、そして末永く愛して頂ける輪島塗を生み出していきたいと考えております。
輪島漆器商工業協同組合 組合員
石川県輪島漆芸美術館 友の会 事務局長
合気道 奥能登合氣会 会長
輪島漆器大雅堂株式会社 代表取締役